2022/07/08

Lucian Freud (2)











ハンサムで魅力的だったフロイドは多くの女性と出会い、彼女たちとの間に30人もの子供がいたと言われています。(認知したのは14人)

フロイドが描くのは、実の子供たちや愛人、友人たちなど、彼が興味を持つ、ごく近しい人々。作業はゆっくりしていて、ものすごく時間をかけて細部を観察して描きました。絵画の歴史において、女性の肖像画は欠点を補うように若く描くのが常でしたが、フロイドはあえて醜く描きました。画家の執拗な観察により微細な欠点も白日の下に晒されたモデルは実際よりも老けて見えました。モデルたちは、しばしば「なぜルシアンは私を醜く描くのだろう」と戸惑ったといいます。

フロイドの祖父は、精神分析を創始したジーグムント・フロイト。祖父がベッドやソファーに患者を座らせて本人が明かそうとしない事実を引き出したように、ルシアンもベットやソファーにモデルを座らせて内面から滲み出る外観の特徴を微細に観察しリアルに表現しました。











この後ろ向きで横たわる女性はフロイドの実の娘アナベル(Annabel)。

まるで冬眠に入った動物のように深い眠り落ちている後ろ姿は、痛々しく精神的な救いを求めているように見えます。閉ざされた彼女の内面は、丸い背中をおおう青いガウンのしわの陰影に見事に表現されています。

唯一あらわなゴツゴツした男のような「足の裏」は、彼女の内面から露出した異物のようです。

フロイドは、しばしば脇役(手や足)を主役(顔)のように描き、脇役に圧倒的な存在感を持たせましたが、この絵は主役が不在で足の裏が主役の代わりを演じます。

絵画の中のヒエラルキー(主役、脇役等)を壊す非常識も彼の専売特許です。

2022/06/16

Lucian Freud (1)











                         Naked Man Back View / The Metropolitan Museum of Art, New York

20世紀の偉大な肖像画家として、世界的な名声を博するきっかけになったのは画家が70才の時(1993年)にニューヨーク、メトロポリタン美術館で開催された個展。

ルシアン・フロイドは、それまで画商たちから「あの男はまったく売りようがない絵ばかり描いている」と陰口を叩かれていたそうです。一般的なコレクターが好む美しさや癒しの要素は微塵もない「おぞましい」作品を描いていると。

リー・バワリーは、少々アンダーグラウンドな舞台のダンサー。100キロを超える肉体の持ち主で頭髪と体毛を剃り上げている。「こんな絵に買い手がいるのだろうか?」「誰が正面を向いた巨大な男性のヌードなど買うのだろうか?」

売りにくい絵ばかり描いていたフロイドですが、リー・バワリーの連作は突き抜けていました。

実は、この異様な男性ヌードの連作がフロイドを国際的に有名にした記念碑的な作品なのです。

世界有数のメトロポリタン美術館はリー・バワリーの肖像の価値を認め、同美術館で画家の個展を大々的に開催することになったのです。


                                                                                   Leigh Bowery

2022/05/15

Damien Hirst 桜











ダミアン・ハーストによる桜の連作(厳選された24点)の展覧会は、最初にパリのカルチェ財団で開催され、東京国立新美術館にやってきました。

展覧会場に入ったとき、「この壁はMOMAニューヨーク近代美術館)のようだな」と心の中で呟きました。

おろしたての白いシーツのような壁面を見つけ「これは良い展覧会に違いない」というポジティブな予感を得ました。

日本で開催される現代美術の展覧会があまり魅力的でないのは「空間」に問題があると常々感じていました。天井のスポット照明のレールが目立ちすぎたり、壁と床の接点の巾木などのディテールがありきたりで空間の質が低く現代美術を展示する箱として相応しくないからです。










この「ダミアン・ハースト 桜」展はアーティス自身が展示を監修し、美術館の壁の前にもう一つの白い壁を立て巾木を無くし人が通る開口部がミニマルになるようにインテリアを再構築したとのこと。これにより空間の中で「桜」と「鑑賞する人々」以外の要素が消え、桜に囲まれた「花見の感覚」を創出することに成功しています。

マーク・ロスコーやジャクソン・ポロックの絵画を鑑賞する空間はミニマルでなければなりません。これらの作家に影響を受けたハーストの絵画も同様なのです。

展覧会の後、気がついたことは抽象表現主義と関係が深いモネの「睡蓮の間」(オランジュリー美術館)での空間体験と似ているということ。そう、まるで作家が創出したイリュージョンに迷い込んだような感覚。

オランジュリー美術館でモネが愛した「ジュベルニーの庭」を擬似体験するように、短い桜の時期に合わせて企画された期間限定の「桜」の鑑賞を終えた観客は、もう同じ桜は観ることが出来ないのだと名残惜しく感じるのでした。

2022/04/20

My most fevorite artist



この美しいEdward HopperはNew Yorkのホイットニー美術館が所蔵する「A Woman in the Sun,1961」という作品です。
Hopperの妻、Josephineをモデルにした一連の作品の一つで彼女は当時78歳でした。彼は見たものを写実的に描くのではなく人物の外観を脳内のイメージに変換して描写しました。

年老いた妻は、画家の脳内で若く美しい姿にトランスフォームし太陽の光を浴びて輝いています。
画家は静止した人物画ではなく過去の記憶と空想が入り混じったファンタジーとしてのストーリーを切り取りFilm Stillのように描きました。まるで映画の一シーンのような絵画の鑑賞者は前後のストーリーを読み解こうと想像力を働かせてしまう。
Cindy ShermanによるUntitle Film StillシリーズにHopperとの類似性を感じるのは私だけでしょうか?)

そこには物語の鑑賞者というもう一つの(覗き見する)眼が想定されておりフェルメール絵画の影響を想起させます。








2022/03/28

Rudolf Stingel



この巨大な作品は、イタリアのアーティスト、Rudolf Stingelの油彩。
自ら監督し自演した架空の映画のスチール写真のようです。

実在しない映画のスチール写真アートはCindy Shermanが始めたジャンル(Untitled Film Stills )ですが、これはShermanの二番煎じなのでしょうか?




Shermanは写真ですが、Stingelの作品は油彩。Shermanは、(監督、演出、コスチュームから役者まで)全て自作自演したオリジナル作品ですが、Stingelの場合、他のアーティストの作品をベースに描いた作品。

西洋のアートシーンにおいて、オリジナティー(独自性)があることが求められ二番煎じは評価の対象にはなりません。二番煎じ的な作品を手がけるStingelですが、意外にも今最も注目されるコンセプチャルな現代アーティストとして脚光を浴びています。

実際、Stingelの作品は一度、実物を前にすると忘れがたい強烈なインパクトがあります。まるで、間近に巨大な映画スクリーンを観るような不思議な感覚。

映画館でアナログ作品をスクリーンに映写するように、Stingelは制作したイメージ(スチール写真)をアーティス自身の手と絵の具でキャンバスに投影する。映画館の映像には無い重厚なイメージがプレゼンスし観客を圧倒します。

このキャンバスに投影された巨大な作品はアーティストの身体が投影装置となった画期的な肖像画となのです。