2021/10/20

芸術の価値

 












ピエロ・マンゾーニというイタリアのアーティストがいます。

彼は、1961年「Merda d' artista(芸術家の糞)」を世に送りセンセーションを巻き起こしました。これは「芸術家の糞」とラベルに書かれた缶詰なのですが、中には本当にラベルに書かれたものが入っているのでしょうか?

この作品は、2015年、Christie'sのオークションに予想落札価格70,000英ポンド〜90,000英ポンド(約1100万円〜約1280万円)として出品され、その高額な予想価格を大幅に上回る182,500英ポンド(約2884万円)で落札されました。

これだけの高額になると缶を開けて中身を確認するわけにはいかず、何が入っているのか謎に包まれたままです。

一般的にアートは美しいものという常識がありますが、マンゾーニの作品を初め、アート作品には醜くおどろおどろしいものが多く存在します。

私は、ヨゼフ・ボイスの言葉を引用し、「形のない美しいものを相手にうまく伝えられた時、それは芸術になる」と記述しました。

これを言い換えると、何か美しいものが創造された時、それが人々にインパクトを与え、さらに口コミで広がるというものならば、それは芸術である。さらに、その作品に関して評論家が論文を書き、その論文が素晴らしく多くの人に読まれたとしたら、その論文の元になった作品は価値ある芸術作品。つまり、優れた芸術作品は社会的な価値を持っているのです。

「嫌われ者世にはばかる」というように、誰の目にも留まらないよりは、アンチでも無視されるよりはましだ、ということです。むしろ、アンチが多いほど、ファンも多く存在感が大きいのも事実。

「芸術家の糞」もそんな作品。アートの世界に大きなインパクトを与え、アートの常識を覆した。鑑賞者は好奇の眼差しでそれを眺め、これのどこが芸術なのかと憤慨する人がいたり、中に何が入っているのか知りたいという欲求に駆られたり... 無視できない存在感が、缶詰のラベルによって生み出される。そのような作品を生み出したマンゾーニは優れた芸術家なのです。